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藤田 雅俊(ふじた まさとし) データ更新日:2024.04.08

教授 /  薬学研究院 臨床薬学部門 生命薬学講座


大学院(学府)担当

学部担当



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電話番号
092-642-6635
FAX番号
092-642-6635
就職実績-他大学
就職実績有, 愛知県がんセンター、国立がんセンター
取得学位
医学博士
学位取得区分(国外)
なし
専門分野
分子生物学、生化学、腫瘍学
外国での教育研究期間(通算)
00ヶ年00ヶ月
活動概要
染色体DNA複製とがん研究
 生物の本質は極言するなら遺伝情報の本体であるDNAを子孫に伝えて行くことにある。そのために、正確に同じコピーを作ることが“DNA複製”(DNA replication)である。進化のためには、変異が起こることも必要ではあるが、基本的には正確な情報伝達が大切であり、その失敗は悪い結末に至ることが多い。その例が遺伝子異常を原因とするがんである。

染色体DNA複製開始の細胞周期制御の分子機構(一細胞周期に一度だけ複製を行うためのライセンシング制御)
 DNAを正確に複製するために、極めて種々の精巧なメカニズムを細胞は持っている。例えば、DNAコピー反応を行っているのは、DNA合成酵素(DNA polymerase)である。これらは正確に娘鎖を合成するが、やはり間違うことがある。細胞はそれを修正する機構を持っており、その破綻が発がんの原因となることがある。また、自然放射線や紫外線などでDNAは常に傷つけられており、その修復機構の異常も発がんの原因となる。
 我々の研究グループの研究の主たる興味の一つは、これらとは違った側面のDNA複製開始の細胞周期制御の分子機構の解明である。ヒト細胞(真核細胞)では、複数の染色体上の膨大な遺伝子DNAを効率よく複製するために、多くの複製開始点から同時に複製が起こる。そのために、複数の複製単位において、一細胞周期に正確に一度だけ複製反応が起こるようにしておく必要がある。このメカニズムがないと、遺伝情報の本体であるDNAの量に異常が生じてしまう。
 最近の我々等の研究から、その分子機構のほぼ全容が明らかになってきた。以下にその概要を記す。細胞周期においてDNA複製に必要な複製前複合体(pre-replication complex; pre-RC)を周期的に形成・崩壊させることがその鍵となる。pre-RC形成とは、ORC1〜6蛋白質から成るORC(複製開始点認識複合体)とCDC6蛋白質、Cdt1蛋白質による、DNA二本鎖開裂ための酵素(ヘリカーゼ)であるMCM2-7複合体のクロマチンへの結合反応である。pre-RC形成を抑制する因子はサイクリン/Cdkリン酸化酵素(キナーゼ)とgemininである(後述)。細胞周期制御ユビキチンリガーゼAPC/Cは、サイクリンとgemininをポリユビキチン化することにより分解に導く。よって、APC/C活性の高いM期終期からG1期にかけてのみpre-RCは形成される。その後APC/C活性が低下するとCdkキナーゼが活性化し、MCMや他の蛋白質のリン酸化を介してMCMは活性化されDNAは開裂し、その後ポリメラーゼにより複製が行われる。役割を終えた後、MCMはクロマチンから遊離し、以降ORCやCDC6、Cdt1の機能は抑制され、それによりMCM再結合・再複製が抑制されている。Cdkは複製開始と同時に再複製抑制においても中心的役割を担っていることがわかった。ORC1はCdkによりリン酸化され、その後SCFSkp2ユビキチンリガーゼによって分解に導かれる。CDC6の一部もCdkによるリン酸化に依存して細胞質に排出される。

複製開始細胞周期制御の中心因子Cdt1:3つのユビキチンリガーゼによる制御の解明
 Cdt1の機能抑制は、gemininという抑制蛋白質との結合によって行われていると考えられていた。しかし最近我々は、何と3つのユビキチンリガーゼによりCdt1が分解制御されていることを明らかにした。この事実こそ、Cdt1という分子の重要性を明確に示している。まず、S期にCdkによるリン酸化に依存してSCFSkp2ユビキチンリガーゼによって分解制御されている。さらに興味深いことに、Cdt1は複製と共役してCul4-DDB1Cdt2ユビキチンリガーゼによっても制御されており、これにはCdt1へのPCNA(ポリメラーゼの補助因子)の結合が必要である。そのことによってS期にのみ分解することが可能になる。また、細胞が休止期に入る際にはAPC/CCdh1ユビキチンリガーゼによって速やかに分解に導かれることも判った。

Cdt1の脱制御は発がんに結びつく染色体不安定性を誘導する
 Cdt1が厳密に制御されているという事実は、複製制御における重要性を強く示唆している。実際に、Cdt1の脱制御は再複製や染色体障害を誘導する。また、他の研究グループによりCdt1 が癌遺伝子として働き得ることも示されている。そして、がん細胞においてCdt1は実際に過剰発現している。よって、Cdt1の脱制御は発がんにつながり得る新たな染色体不安定性誘導機構であると考えられる。

Cdt1-geminin系は新規抗がん剤の分子ターゲットとなる可能性がある
 Cdt1の脱制御・機能亢進は染色体・細胞傷害を惹起するが、それに対する感受性は正常細胞株よりがん細胞株の方が高いことを発見した。その原因として、がん細胞におけるORC等ライセンシング因子の過剰発現やDNA損傷チェックポイントの異常などが考えられる。すなわち、Cdt1抑制蛋白質gemininの機能を抑制することにより、がん細胞に選択的に傷害を与えられる可能性がある。そこで、我々はCdt1とgemininの結合を阻害する低分子化合物の同定を開始した。まず、そのためにhigh throughputのスクリーニング系を確立した。少なくともin vitroで阻害する物質をいくつか同定し、その結合様式の検討を行い、Cdt1-geminin結合阻害剤が抗がん剤になりうる可能性の提唱と共に論文発表した。これは将来のidealな化合物の合成のための基礎となろう。また数万のケミカルライブラリー、クルードな混合物あるいは微生物二次代謝産物のスクリーニングも行いつつあり、Cdt1-geminin結合を阻害し且つ正常細胞への毒性が少なくがん細胞の増殖を抑制する化合物あるいは部分精製物を既に幾つか同定した。

以上、詳細はホームページ等もご覧下さい。

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