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粟根 徹(あわね とおる) データ更新日:2017.10.30





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電話番号
092-802-3923
FAX番号
092-802-3894
取得学位
博士(工学)
専門分野
分析化学、電子顕微鏡学、材料科学、イオンビーム分析、イオンビーム加工、物理化学、水素分析
活動概要
株式会社神戸工業試験場から九州大学水素材料先端科学研究センターに出向している。同センターにおいて下記Ⅰ、Ⅱに示す研究と教育に従事している。(2008年4月~現在)
九州大学での任期は2018年2月28日で終了する。2018年3月1日からシンクロトンアナリシスLLC ( http://sallc.jp/ )で勤務する。

Ⅰ 研究

 研究分野は分析化学、材料科学、物理化学、電子顕微鏡学である。構造用金属材料を対象にした分光分析(特に二次イオン質量分析法、X線分光分析法)、水素分析、電子顕微鏡による組織解析、破断面の解析に関する研究を主に行っている。実用的な分析・解析方法を開発し、その方法を用いて科学上の新発見に到達することを目指している。

1. 水素材料先端科学研究センターにおける研究(2008年4月~現在)

 安心・安全な水素エネルギー社会の実現を目指して、水素材料先端科学研究センターにおいて主に以下(1)~(5)の研究に取り組んでいる。

(1) 二次イオン質量分析(SIMS)法による水素利用機器用金属材料中の水素の高感度分析に関する研究

(2) 構造用金属材料に水素が侵入することを抑制するための金属皮膜に関する研究(SEM-EDX、EBSDによる皮膜の組織・組成分布の解析、SIMSによる皮膜中の水素分布の分析)

(3) 高圧水素ガス用容器の水素脆性破面の解析(フラクトグラフィ)に関する研究

(4) 水素ガス用ひずみゲージの損傷評価法に関する研究

(5) 水素利用機器用金属材料表面の自然酸化膜、金属薄膜の分析評価に関する研究(XRR、AESによる分析)

2. 特筆すべき研究成果

 (1)~(4)に私が主導し、特筆すべき成果を挙げた研究の概要を示す。

(1) 二次イオン質量分析法による金属材料中の水素の高感度分析法に関する研究 [1]

-金属材料中の微量の水素の局所分析を正確に行うことができる唯一の分析方法-

 金属材料の水素脆化の発現の度合は材料中の水素の局所分布と関連性がある。水素の局所分布の分析は水素が材料の強度に及ぼす影響を研究する上で極めて重要である。二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry: SIMS)法により金属材料の局所領域(直径数um)における水素を含む全元素の同位体の深さ方向分析を行うことができる。しかし、SIMS法により金属材料中の水素を測定する際、SIMS試料室の真空中、試料室表面、試料表面に存在する水分など、分子中に水素を含む物質から発生した「バックグラウンド由来の水素」が同時に検出されるため、試料に含まれる水素の正味の強度の評価は極めて困難であった。粟根らは「バックグラウンド由来の水素の低減方法」と「バックグラウンド由来の水素強度の評価方法」の2つの方法から成る「金属材料にチャージした水素の高感度SIMS分析法」を独自に開発した。[2] この高感度SIMS分析法によってオーステナイト系ステンレス鋼にチャージ(注入)した水素の正味の強度の定量的な評価に初めて成功した。更に、この高感度SIMS分析法により取得したオーステナイト系ステンレス鋼中の水素の二次イオン強度の実測値の時間変化と、物理化学的計算による水素濃度の時間変化の計算値を比較し、両者がよく一致することを示すことによって、高感度SIMS分析法の正確性を証明した。[3] 2016年1月現在、高感度SIMS分析法により検出した金属材料中にチャージした水素の最小濃度は、フェライト鋼における0.12 wt. ppmである。[4]
 2015年、高圧水素ガス中で構造用金属材料に水素が侵入することを防止することを目的として材料表面に形成したアルミニウム合金皮膜のどの部位が水素を遮断しているのか調べるため、高感度SIMS分析法を用いて皮膜を深さ方向分析した。その結果、皮膜中の純Al層とFe-Al金属間化合物層の界面部の複数箇所で水素の集積を観測し、この界面部が水素を遮断していることを明らかにした。[5]
2017年、独自のSIMS分析技術を駆使して高圧水素ガス曝露された実用アルミニウム合金:6061-T6中の金属間化合物粒子にトラップされた”真”の水素の検出、並びにトラップされた水素の3次元観察に科学史上初めて成功した。更に、トラップされた水素の分布状況の解析から6061-T6がなぜ高い水素脆化特性を持つのか明らかにした。[6]

[主要な参考文献]
[1] 日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 鋼中水素分析フォーラム第1回講演会 招待講演用スライドのPDFファイル(Researchmap)
http://researchmap.jp/mu97v6nn1-2060659/#_2060659

[2] "Highly Sensitive Detection of Net Hydrogen Charged into Austenitic Stainless Steel with Secondary Ion Mass Spectrometry”
Tohru Awane, Yoshihiro Fukushima, Takashi Matsuo, Saburo Matsuoka, Yukitaka Murakami, and Shiro Miwa
Analytical Chemistry [注], Vol.83 (2011), 2667-2676.
http://dx.doi.org/10.1021/ac103100b

[3] "Highly Sensitive Secondary Ion Mass Spectrometric Analysis of Time Variation of Hydrogen Spatial Distribution in Austenitic Stainless Steel at Room Temperature in Vacuum"
Tohru Awane, Yoshihiro Fukushima, Takashi Matsuo, Yukitaka Murakami, and Shiro Miwa
International Journal of Hydrogen Energy, Vol.39 (2014), 1164-1172.

[4] "Detection of Charged Hydrogen in Ferritic Steel through Cryogenic Secondary Ion Mass Spectrometry"
Atsushi Nishimoto, Motomichi Koyama, Shigeru Yamato, Yasuji Oda, Tohru Awane and Hiroshi Noguchi
ISIJ International, Vol. 55 (2015), 335-337.

[5] “Elucidating the hydrogen-entry-obstruction mechanism of a newly developed aluminum-based coating in high-pressure gaseous hydrogen”
Junichiro Yamabe, Torhu Awane, Saburo Matsuoka
International Journal of Hydrogen Energy, Vol.40 (2015), 10329-10339.

[6] "Hydrogen trapped at intermetallic particles in aluminum alloy 6061-T6 exposed to high-pressure hydrogen gas and the reason for high resistance against hydrogen embrittlement"
Junichiro Yamabe, Tohru Awane, Yukitaka Murakami,
International Journal of Hydrogen Energy,
Vol. 42 (2017), 24560-24568.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ijhydene.2017.08.035


(2) 斜出射電子線マイクロプローブアナリシス法による金属表面のサブミクロンサイズの介在物・析出物の分析に関する研究

-金属材料表面部の単一のサブミクロン介在物・析出物の成分分析を一般的なEDS-SEMでごく簡単に行うことができる分析方法-

 試料に細く絞った電子線を照射し、特性X線を調べる電子線マイクロプローブアナリシス法(Electron Probe Micro Analysis: EPMA法)によって金属材料表面部の介在物・析出物の形態を観察しながら組成を分析することができる。しかし、介材物・析出物が直径1um以下になると介在物・析出物を透過した電子線が、母相の構成元素の特性X線を励起する。母相から発生した特性X線が介在物・析出物の正確な組成の分析を妨げることはよく知られている。そこで、粟根は特性X線を0度近傍の非常に小さな取り出し角度で測定するEPMA法である「斜出射EPMA法」が金属材料表面に観察される直径1um以下の介在物・析出物の分析に有効か否か検討した。粟根は通常のEDS-SEMに斜出射EPMA法を導入するための簡便な方法を考案し、実用金属材料腐食面上に観察される直径1um以下の介在物・析出物の分析に斜出射EPMA法を初めて応用した。その結果、介在物・析出物の下部の母相から発生する特性X線を検出することなく、介在物・析出物から発生した特性X線のみを良好なピーク/バックグラウンド(P/B)比で観測することに成功した。

[主要な参考文献]
[1] "Grazing Exit Electron Probe Microanalysis of Submicrometer Inclusions in Metallic Materials”
Tohru Awane, Takashi Kimura, Kenji Nishida, Nobuhiro Ishikawa, Shigeo Tanuma, and Morihiko Nakamura
Analytical Chemistry, Vol.75 (2003), 3831-3836.

[2] 本方法に関する日本語PDF資料(Researchmap)
http://researchmap.jp/mu4pd8llp-2060659/#_2060659

(3) 斜出射微小部蛍光X線分析法による水分を含む葉の表面に付着した微量有害金属の分析に関する研究

-平坦性に乏しい未処理の植物の葉など生体試料や高分子試料の表面分析を可能にする画期的なX線分析法-

 植物の葉に付着した微量の有害金属の分析は環境分析の観点から非常に重要である。そこで、X線集光素子で細く絞ったX線を試料に照射し、試料から発生した特性X線を0度近傍の非常に小さな取出し角度で測定する表面分析法である「斜出射微小部蛍光X線分析法」を用いて水分を含む葉の表面部を限定的に分析するための方法を研究した。斜出射微小部蛍光X線分析法でPb粒子が付着したカンツバキの葉を分析するに際して、葉とX線検出器の間に、葉の内部から発生したX線の吸収体としてシリコンチップを設置する独自の新方法「X線吸収体法」を開発・導入し、測定を行った。その結果、葉の表面近傍領域から発生したX線を限定的に検出し、高いP/B比でPbの特性X線を検出することに初めて成功した。

[主要な参考文献]
[1] “Grazing Exit Micro X-ray Fluorescence Analysis of a Hazardous Metal Attached to a Plant Leaf Surface Using an X-ray Absorber Method”
Tohru Awane, Shintaro Fukuoka, Kazuo Nakamachi, and Kouichi Tsuji
Analytical Chemistry, Vol.81 (2009), 3356-3364.

[2] 本方法に関する日本語PDF資料(Researchmap)
http://researchmap.jp/muryoidjy-2060659/#_2060659

(4) 金属試料表面上に付着したエポキシ樹脂等の難溶解性有機物の除去技術

 ある程度の耐食性を有する金属試料表面上のエポキシ樹脂などの難溶解性有機物を、破面の微細構造を損傷することなく除去する独自の化学的方法を開発した。[1]本方法は室温以下に保った100%に近い濃度の濃硫酸を有機物の分解に用いる点がユニークである。100%に近い濃度の濃硫酸が有する以下の性質を利用している。

・水素(H)、酸素(O)を含む分子から水分子(H2O)の形で水素と酸素を奪い取る「脱水作用」を有する。濃硫酸が樹脂に脱水作用を及ぼす過程で有機物が分解、除去される。

・100%に近い濃度の濃硫酸は室温下ではほとんど電離していないため、金属に対する腐食作用が極めて微弱である。そのため、金属破面を濃硫酸に浸漬しても破面の微細様相は損傷を受けない。

最近の研究(以下の文献[2]を参照のこと)において、本方法により金属破面上のエポキシ樹脂を完全に除去できることをX線分析法(SEM-EDX法)により明らかにしている。

[主要な参考文献]
[1] “冷濃硫酸を用いた検鏡金属試料面の有機系付着物除去”
粟根 徹
日本金属学会誌, Vol.63, No.4 (1999), 551-552.

[2] "The method of removing hardly soluble organic material from metallic specimen used in fracture surface analysis by scanning electron microscope"
Tohru Awane
Microsopy, Vol.62, No.6(2013), pp.615-621.

[3] 本方法に関する日本語PDF資料(Researchmap)
http://researchmap.jp/mu4t83427-2060659/#_2060659

[注] Analytical Chemistry誌はAmerican Chemical Society発行の分析化学の専門誌である。Thomson Reuters のJournal Citation ReportsによるとAnalytical Chemistry誌は被引用件数(2012年は96,794件)、インパクトファクター(2012年は5.695)ともに、73ある分析化学関連誌の中で第1位であり、分析化学分野のトップジャーナルとなっている。

Ⅱ 教育

 研究機関や大学において、国内外の研究者、大学院生、大学生を対象に、主として以下の教育を行って来た。

1. 分析化学

2. 材料科学

3. 機器分析技術

自分で作成した教育用資料を保管したWEBページ
http://yahoo.jp/box/yseR9O

4. 特に得意とする教育内容

重工業系企業研究所、国立研究所、大学における分光分析化学、電子顕微鏡学、材料科学に関する研究経験を背景として、特に以下(1)~(8)の教育を得意としている。材料の分析・研究・調査を行う上で役に立つ実用的な知識や技術を簡潔に、分かりやすく指導するよう心掛けている。

(1) エネルギー分散型X線分析装置(EDS)、走査型電子顕微鏡(SEM)、二次イオン質量分析計(SIMS)等の分析装置、並びに集束イオンビーム装置(FIB)の操作法に関する指導

(2) SEM、FIBの原理と応用方法に関する指導 (加速電圧やプローブ径の効果、電子銃の種類と分解能の関係、反射電子像における平均原子番号コントラストなど)

(3) X線分析の原理と応用方法に関する指導(EPMA法、XRF法、EDS・WDSの原理と特長、EPMA法におけるZAF補正など)

(4) SIMS分析の原理と応用方法に関する指導(独自に開発したSIMSによる水素分析法を含む)

(5) 分析データの解析法に関する指導 (統計学的なデータ整理法、X線スペクトルにおけるネット強度の算出方法など)

(6) 材料の組織(例えば、鉄鋼の相図と組織の関係など)、破断面解析(フラクトグラフィ)、介在物・析出物、強度に関する指導

(7) 材料強度試験(引張試験、疲労試験)に関する指導

(8) 自分で開発した技術を含む試料作製技術に関する指導

(9) 上記(1)~(8)の指導のための教材の作成

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